恋、教えてやろうか?
以前、ゼシカにそんなことをいった覚えがある。
結構です!
ものすごい剣幕で、彼女はそう即答した。自分には不要だと、そんなことより兄の仇を討つ方が先決だと、彼女はいきり立ったようにつづけた。
(参ったな・・・・ホント)
緑の葉を手でもてあそびながら、彼は天井を見上げた。彼女のあたたかい手の感触が頬にまだ残っているような気がして、なぜか、やわらいだおもいがして。
「ありがたく使わせてもらうとするか」
手のなかにある一枚の葉に目を落として、独り言をつぶやく。
治癒呪文の使えない彼女が置いていった、回復の葉。名称はいやし草。ただし効能は外傷のみで心の傷は対象外、そんなことはとっくに承知している。
けれども、見えない傷までも自然に塞がったように感じられるのは、この草のせいかもしれない。
『これでも使いなさい』。
たとえば、慈愛の女神の微笑み。
たとえば、母が子をみつめる目。
普段はきつい口調をとばす彼女だが、さきほどのそれはひどく穏やかだった。
神がこの世に男と女を創りたもうたのはこういう意味もあったのかと、ふとおぼろげに考える。
(なんだか、俺のほうが教えられちまったな)
いやし草をながめながら、彼は苦笑いをうかべた。決して不快ではない、むしろ心地よい風が心を通り抜けてゆく。
彼女が使ったのは、魔法力不要の回復魔法。
与えるだけの無償の癒し。
一般に、ひとがそれをなんとよぶのかは知っている。
「・・・・やっぱりやめとくか。売れば金になるし、錬金釜でつくるのも結構時間がかかるからな」
少しばかり目を細めて、ククールは葉をそっと懐にしまいこんだ。
ゼシカに恋を教える必要はない。
彼女はより崇高な概念を知っている。
fin
*短くてすみません。ヤヴァイです。そろそろヤヴァイです。筆が滑りはじめています。
だからこいつらは甘々にしちゃだめだと、念じながら書いている次第です(^_^;