「ゼシカはやっぱり、リーザス村に帰したほうがいいんではないでがすかね・・・・」
ドルマゲスの野郎もたちが悪い。娘っ子には、ちいとばかり荷が重い相手だとアッシは思うんでがすよ。
と、思案顔でいったのはヤンガスだった。もちろん彼女が邪魔であるとか足手まといになる、という理由で言っているわけではないだろう。これはこの男なりの気遣いなのであろう。
山あり谷ありの道。一歩町の外に出れば、いつ魔物が襲ってくるかわからない。野宿も多い。常に生命の危険が伴う旅に、うら若い女性が同行するのは歓迎されたことではない。また、皆の共通の敵でもあるドルマゲスなる悪魔的な男を相手にするには、荷がかちすぎるのではないだろうか・・・・
(いいたいことはわからないでもないんだが)
ククールはおもった。たしかに、美貌の女性が魔物に傷を負わされる図なと、みていて気分のいいものではない。が、今は、もっとも肝心のことが抜けているようにおもう。
「いいんだけどさ、それでゼシカが納得すると思うか?第一、誰がゼシカに帰れって言うんだよ?俺はごめんだぜ」
首をふって彼はいった。
いつになく、張りつめた空気の漂う宿の一室では、顔をつきあわせた三人の、真剣な会話が続いている。
「うむむ。・・・・そういわれると・・・・だけど、ゼシカの姉ちゃんのことを思うなら村に帰したほうがいいと思ったんだが・・・・兄貴はどうおもうでがす?」
「うーん・・・・・」
話題をふられたもうひとりの青年は困ったように腕を組んだ。彼も頭を悩ませているのだろう。
「兄貴、ゼシカを帰すなら今でがすよ。これから旅を続ければ続けるほど、リーザス村から遠くなるでがす」
「おいおい、少し待てよ。先走りしすぎだぜ。ゼシカの考えをきいてからだって遅くはないと、俺はおもうぜ」
ヤンガスが、本気でゼシカの身を心配しているのはよくわかる。だからといって、当人をおざなりにしていいというものではない。
陰で他人をどうこう言うのは修道院の日常にも通じるものがあると感じながら、ククールは、一度そらせた視線をまた戻した。
「それに本人のいないところで、俺たちだけで議論するのはフェアじゃない」
こんなことでもめていてどうするんだ、という腹はある。ヤンガスには意外に狭量なところがあるのかもしれない、とも考えかけて、さすがに思い返してすぐに打ち消す。
「だいたいお前ら、ゼシカが自分の手でドルマゲスを倒したいって言ってるのを、忘れちまったわけじゃないだろ?殺された兄貴の仇を討ちたいってのは、俺もくどいくらい聞いたぜ」
「それはアッシだって、耳にタコつぼができるくらい聞いてまさあ」
「なら問題ないだろ?俺はゼシカの意志を尊重すべきだと思うね。荷が重いっていうんなら、フォローしてやればいい。それだけの話だ」
前身が山賊というヤンガスには、こういった考え方はできないのかもしれない。自分の力だけを頼りに生きてきたのであろうこの男には、他人どうしで助け合いをする、といった感覚がいまひとつぴんとこないのかもしれない。
「わかったよ、ククール」
うつむき気味に黙り込んでいた青年が、ようやくここで顔をあげる。結論はでたようだった。
「兄貴・・・・まあ、兄貴がそう言うんじゃあ、アッシは何も言うことはないでがす」
「俺たちがここに集まったのも何かの縁だ。全員の目的は同じなんだ。・・・・仲良くやろうぜ」
ククールはひとつうなずいた。
もしゼシカがこの場にいたなら、ひと騒動おきていたに違いない。彼女はやたらと気が強い。もっとも、感情に走りやすいのは女性全般にいえる傾向かもしれないが・・・・
(・・・・それでいいさ)。
はじめて出会ったドニの酒場。ならず者に腹をたてて、魔法の呪文を唱えかけた彼女の姿を思い出す。あんなところで攻撃魔法などを使えば、酒場ごとふっとびかねないのは知っているだろうに。
綺麗なお嬢さんは、案外、血の気が多かった。
「ククール?」
「・・・・いや、なんでもない」
怪訝そうなよびかけに、今度は首を横にふる。無意識のうちに、苦笑いを浮かべていたようだった。
「・・・・あなた、よくそんな台詞が平気で言えるわね」
細い眉を少々つりあげて、ゼシカはいった。
「忘れられたら困るからな。お望みとあれば何度でも言うぜ」
そばを歩く彼女にむかって、彼はわらってみせた。
天気は良い。
目にいたいほど鮮やかな緑のなかに、ふたりの会話と馬車の車輪の音がとけてゆく。
「レディを守るのは騎士の役割だからな。当然のことさ」
「騎士は騎士でもあなたは聖堂騎士でしょ?教会や修道院を守るのが仕事じゃない」
「修道院なんかを警護するより、美しい女性を守るほうがよっぽどやりがいがあるってもんだ。俺は君だけを守る騎士になるって言っただろ?覚えてるよな?」
「あなたのほうこそ覚えていてほしいわね。何度もいったと思うけど、くだらないこと言うのはいい加減にして」
肩を怒らせたゼシカは、これ以上会話を続けるのも嫌だといわんばかりにそっぽをむいた。
(まあ、な)
そんな彼女から視線をはずして前方をみやったククールは、胸中でぽつりとつぶやいた。
あの会話は、知らないでいい。
fin
*お気づきかと思いますが、冒頭のヤンガスの台詞はマイエラ修道院でククール加入前に出てくる台詞です。
ゼシカを心配するあまりククール加入後にヤンガスがもう一回言ったということにしてください。
原作曲げてしまってスミマセン・・・・
それとククール。彼にしては格好よすぎでなんだかククールじゃないですね。